東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)251号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いのない甲第四号証によれば、本件明細書には、本件発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について次のとおり記載されていることが認められる。
(一) 本件発明は、加工すべき海苔等のシート状物の積層から海苔等のシート状物を一枚宛自動的に取り出す装置に関する(本件発明の出願公告公報第一欄第二九行、第三〇行)ものであつて、従来味付け海苔等の加工において海苔は破れやすく、加工機へ機械的に自動供給することが困難なため、通常作業者が海苔を一枚宛手作業により積層から取り出して供給する方法がとられているので、加工能率が低く、量産化の障害となつていた(第一欄第三一行ないし第三六行)との知見に基づき、加工海苔のような破れやすいシート状物の自動供給を可能とし、作業の省力化及び能率向上に有効な供給装置を提供すること(第二欄第四行ないし第六行)を技術的課題(目的)とするものである。
(二) 本件発明は、前記技術的課題を達成するために特許請求の範囲(本件発明の要旨)記載の構成(第一欄第一五行ないし第二七行)を採用したものである。
(三) 本件発明は、前記構成を採用したことにより、次の作用効果を奏する。
(1) シート状物は摺擦、引掛りがなく、海苔のように破れやすいシートでも全然傷めず一枚宛円滑に自動供給できる(第六欄第一行ないし第三行)
(2) 吸引筐2の吸着面23は、両側へ低く傾斜させたものであるから、吸着面23に吸引力を作用させるだけで最下部シートと二枚目シートとの間に受爪50を挿入する間隙を形成できる(同欄第六行ないし第九行)
また、吸引筐2の昇降動作だけで、最下部シートを積層から剥離できる(同欄第一〇行ないし第一二行)
(3) 前記(2)により装置の構造及び動作が著しく簡略化され、装置の小型化を実現できる(同欄第一二行ないし第一四行)。
2 本件発明と第一引用例記載の発明とは、「シート状物を積層する支持枠の下端にシート状物の取出し開口を設け」、「支持枠の下方には積層下面の両端部を受け止めあるいは開放する一対の受爪を開口下方へ出没可能に配備して、両受爪へ吸引筐の昇降に対応して受爪を開閉動作させる作動機構を連繋し、前記吸引筐には吸着面へ積層最下部シートの両側端部を吸着させる吸気装置を接続したシート状物の取出装置」である点で一致し、吸引筐に係る要件のみ相違することは、当事者間に争いがない。
そして、両者の吸引筐(吸引装置)の構成について検討すると、前記認定の本件発明の特許請求の範囲によれば、本件発明は、「開口12に対し中空筐状の吸引筐2を昇降可能に配備して、該吸引筐2の上面に両側へ低く傾斜しかつ傾斜面上に吸引口24を開設した吸着面23、23を形成し」たものであるのに対し、成立に争いのない甲第二号証によれば、第一引用例記載の吸引装置は、ブランク山11(本件発明の「積層するシート状物」に相当する。)の取出し開口に対し上下に往復動するように、すなわち、昇降可能に配備されている点では本件発明と共通するが、ブランク山11を保持するマガジン10(本件発明の「支持枠11」に相当する。)の下方中心部に配設したスタツク支持部材12、及び該スタツク支持部材12の対向側面に吸付けカツプ51を有する複数組の吸引ヘツド14を配備して構成し、スタツク支持部材12と吸引ヘツド14とは、吸引ヘツド14がスタツク支持部材12の一部をなしているフレームに軸承されている限り、カム盤42によつてスタツク支持部材12が上下動するにつれて吸引ヘツド14も上下動するが、吸引ヘツド14はスタツク支持部材12の上下動とは独立に駆動する別個の駆動機構であるカム盤56によつて回動するものである点で本件発明と相違していることが認められる。
原告は、第一引用例記載の発明において、その吸引装置に代えて第二引用例記載の可動テーブル8を適用して本件発明の構成を得ることは、当業者であれば容易になし得たことである、と主張する。
そこで、まず第二引用例記載の可動テーブル8について検討すると、成立に争いのない甲第三号証によれば、第二引用例記載の発明は、データカード選択装置に関するものであつて、その可動テーブル8の構成及び作用は次のとおりであることが認められる。
(一) 可動テーブル8の構成
可動テーブル8の上面は、平面をなす中間部9と、下方へ傾斜した対向端部10、11により構成される。
対向端部10、11の下方への傾斜は、ホツパーの一側面の前壁4の端末5の傾斜部分6、7と同一の角度である。
対向端部10、11には複数の真空用開口15、16が形成されている。真空用開口15、16は真空室13、14に通じている(以上、第二欄第六〇行ないし第三欄第一四行)。
(二) 可動テーブル8の作用とカードの取出し
真空室13、14が真空化されていないときは、積層カードCの最下部カードC1は、可動テーブル8の中間部9上の平坦な水平位置に載つている(第四欄第五九行ないし第六四行、FIG5参照)。
真空室13、14が真空化されると、最下部カードC1は対向両端が可動テーブル8の傾斜した対向端部10、11に向け下方に引かれ、最下部カードC1の対向両端が可動テーブル8の対向両端と接触を維持されるように保持される(第四欄第六五行ないし第五欄第六行、FIG6、FIG7参照)。
真空室13、14及び導管18、19内の真空力が高まると、真空スイツチが感知し、モータ12を付勢して可動テーブル8を摘まみ手段22に向け横断方向に動かす(第四欄第二二行ないし第二七行)。
可動テーブル8上のカードC1は、ホツパを横切る方向に可動テーブル8とともに動き、摘まみ手段22により可動テーブル8から取り去られる(第五欄第六行ないし第一二行)。
右認定事実によれば、第二引用例記載の可動テーブル8は上面が平面をなす中間部9と、下方へ傾斜した対向端部10、11により構成され、その作用により積層カードCの最下部カードC1を取り出すものであつて、傾斜面に吸引口を形成した中空筐状のシート状物の吸引装置という点に限定すれば、本件発明の吸引筐2と共通するものである。しかしながら、このことから、直ちに、第一引用例記載の発明において、その吸引装置と第二引用例記載の可動テーブル8とを置換して本件発明の構成を得ることはできない。けだし、本件発明の吸引筐2、第一引用例記載の吸引装置と、第二引用例記載の可動テーブル8とが、その技術的意義、特にシート状物取出しの原理、右装置の持つ機能等を異にしその間に共通性が認められないときは、当業者において第一引用例記載の吸引装置に代えて第二引用例記載の可動テーブル8を適用して本件発明の構成を得ることは容易に想到し得ないからである。
ところで、前掲甲第四号証によれば、本件発明は、開口12に対し昇降可能に配備された吸引筐2の上面に両側へ低く傾斜し、かつ傾斜面上に吸引口24を開設した吸着面23、23を形成し、吸引筐2を上昇させ吸気装置4により積層最下部のシート状物を吸着して両端を下方に曲げ、二枚目との間に間隙aを形成する(別紙図面(一)第3図参照)ことによつて二枚目以上は間隙a中に受爪50、50を挿入して支え、吸引筐2が積層最下部の一枚のシートを吸着面23、23に吸着して下降することによつて最下部シート状物を下方に取り出す(同第4図参照)ものであることが認められる。
一方、第一引用例記載の吸引装置は、前記認定のスタツク支持部材12及び吸引ヘツド14をもつて構成するものであつて、本件発明とはその構成を異にするものであることは前述のとおりであるが、前掲甲第二号証によれば、第一引用例記載の発明においては、スタツク支持部材12と吸引ヘツド14を上昇させてブランク山11を持ち上げ、吸引ヘツド14によりブランク山11から最下位ブランクを吸着して引きはがし(別紙図面(二)FIG7参照)、吸引ヘツド14を回動して二枚目との間との間隙を形成し(同FIG8参照)、二枚目以上は間隙中にスタツク支持刃体13を挿入して支え、吸引ヘツド14を下降させて最下部ブランクを取り出す(同FIG9参照)ものであつて、吸引装置によりシート状物を取り出す原理は本件発明と共通していることが認められる。
そこで、本件発明の吸引筐2、第一引用例記載の吸引装置と第二引用例記載の可動テーブル8とを対比すると、本件発明の吸引筐2及び第一引用例記載の吸引装置においては、該装置の昇降運動により、すなわち該装置を上下動させることにより積層されたシート状物中の最下部シートを取り出すものであるのに対し、第二引用例記載の可動テーブル8は水平方向に前後動することにより積層されたシート状物中の最下部シートを取り出すものであつて、シート取出しの原理を異にしている。
また、本件発明においては、吸引筐2の吸着面に最下部シートを吸着し、吸着された最下部シートの両端部は二枚目のシートから離れて間隙aを形成し、この間隙aに受爪50、50が係入し、積層の下降を止める。第一引用例記載の吸引装置も、最下部シートと二枚目との間に間隙を形成し、この間隙にスタツク支持刃体13を係入して積層の下面両端部を支持し、積層の下降を止める点では本件発明と共通している。これに対し、第二引用例記載の発明においては、可動テーブル8は上下動するものでないから積層の下降を止める部材(受爪・スタツク支持刃体)を必要とせず、したがつて、右部材が係入し得る間隙を必要としない。
その結果、本件発明と第二引用例記載の発明とは、ともに上面にその両側への傾斜面を有し、該傾斜面に吸引口を形成した装置によりシート状物を取り出すものであつても、本件発明の吸引筐2の傾斜面は、吸引筐2の動きによつて規制されないのに対し、第二引用例記載の可動テーブル8の傾斜面は、可動テーブル8がホツパを横切る方向に往復できるように、ホツパの一側面にあつてカードの動きを抑える前壁4の傾斜角度に規制されてその傾斜部分と同一角度に下方に傾斜している。また、本件発明においては、前記間隙aは吸引筐2の上面への傾斜面との関係において形成されるのであるから、傾斜面は間隙aを形成するだけの傾斜であることを要するのに対し、第二引用例記載の発明は、間隙aを必要としないため傾斜面は間隙aによつて規制されるものでなく、両者は傾斜面が有する技術的意義を異にする。
したがつて、本件発明の吸引筐2、第一引用例記載の吸引装置と、第二引用例記載の可動テーブル8とは、その技術的意義を異にし、その間に共通性を認めることができないから、当業者において、第一引用例記載の吸引装置に代えて第二引用例記載の可動テーブル8を適用して本件発明の構成を得ることは容易に想到し得ることでない、というべきである。
原告は、前記相違点について判断するに当たり、審決が第一引用例記載のスタツク支持部材12及び吸引ヘツド14と第二引用例記載の可動テーブル8に関して示した認定、判断に誤りがある旨主張するが、両者がその技術的意義を異にすることは、前述のとおりであつて、その点についての審決の認定、判断に誤りはなく、本件発明の吸引筐2、第一引用例記載の吸引装置と、第二引用例記載の可動テーブル8との技術的意義の違いにより、第一引用例記載の吸引装置に代えて第二引用例記載の可動テーブル8を適用して本件発明の構成を得ることが当業者にとつて容易に想到し得ないものである以上、原告の主張は理由がないというべきである。
そして、本件発明は、吸引筐2を昇降可能に配備したこと、吸引筐2の上面に両側へ低く傾斜しかつ傾斜面上に吸引口24を開設した吸着面23、23を形成したこと、及び吸引筐2の昇降に対応して受爪50、50を開閉動作させる作動機構を連繋する構成とし、これらの構成を有機的に結合させることによつて前記1(三)認定の顕著な作用効果を奏するものであつて、この作用効果は、このような構成を有しない第一引用例及び第二引用例記載の発明に比して格別のものということができる。
3 以上のとおり、本件発明は、第一引用例及び第二引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、審決の判断は正当であつて、審決に原告主張の違法は存しない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。
〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。
海苔等のシート状物を積層する支持枠11の下端にシート状物の取出し開口12を設け、該開口12に対し中空筐状の吸引筐2を昇降可能に配備して、該吸引筐2の上面に両側へ低く傾斜し、かつ傾斜面上に吸引口24を開設した吸着面23、23を形成し、支持枠11の下方には積層下面の両端部を受け止めあるいは開放する一対の受爪50、50を開口12下方へ出没可能に配備して、両受爪50へ吸引筐2の昇降に対応して受爪50を開閉動作させる作動機構52を連繋し、前記吸引筐2には吸着面23、23へ積層最下部シートの両側端部を吸着させる吸気装置4を接続したシート状物の取出装置
(別紙図面(一)参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
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(中略)
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別紙図面(二)
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別紙図面(三)
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(以下省略)